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英語教育を「国際競争力」「AIの進化に合わせた方法論」「日本のローカル事情」の3軸から見つめるブログ

英語基礎演習の思い出

最近読んだ本の中で、著者が最近の理系学生の数学力不足に問題提起をしていました。「少なくとも数学Ⅱ・Bまではきちんと使いこなせるようになって、大学に入ってきて欲しい」。私は学生の数学力が不足しているなら、大学で補習授業を行えばいいのにと思いましたが、事情はそう簡単ではないようです。「高校の復習内容の授業で大学の単位を出すわけにはいかない」確かにそうかもしれません。でもそんなしがらみに囚われていていいのだろうか。そんな時、ふと昔のことを思い出しました。

英語教師になってしばらくした頃、勤めていた学校(都内私立中高一貫校、生徒の学力は総じて高い)の英語科会議の席でのこと。「中学校3年間の文法が定着しておらず、高校英語が日本語訳の丸暗記になってしまっている生徒が一定数いる。どうすべきか?」中高一貫校の弱点として、高校入試というスクリーニング機能が働きません。結果、高1スタート時の生徒間の学力差は公立高校よりも開いていることが多いのです。中学時代に英語でちょっとつまづいたからといって、それ以降英語が嫌いになったり、海外とやりとりする仕事を敬遠するようになったりするのは、もったいない。

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私は教師になる前、大学・大学院時代に5年間ほど、学生講師として学習塾・予備校で主に高校受験の英語指導をしていました(その後、自然と教師を目指すようになりました)。その経験から、生徒がどの単元、文法事項でつまづくことが多いのか、生徒の勉強方法のどこに問題点があるのか、経験的に知っていたように思います。塾や予備校では、必要に応じて手前の学年の補習をすることも、先の学年の先取り学習をすることも自由です。

そこで私は会議で提案しました。「思い切って、中学3年間の復習をする選択科目を高1向けに開講してはどうでしょうか?中3の成績に基づいて、補習科目が必要な生徒を選別、本人に説明して履修を勧める。」他の先生からは反対意見が次々と出ました。中でも強調されたのが、補習科目を受けない他の生徒と比して、「より平易な内容を勉強して、有利な成績が取れてしまうことが不公平にならないか」という点でした。冒頭に書いた数学の件に似ているかもしれません。

私は、「補習科目でいい成績を取ることによって、英語への苦手意識が解消され、興味・関心が戻るならば、むしろ望ましいと思いますよ」と説明しました。他にも、「教材の選定はどうする?」「成績をつける基準は?」といろいろ議題に上がりましたが、「では発案者の私が全部引き受けます」ということで私の案は無事採用となり、高1補習科目「英語基礎演習」がスタートしました。

教材の選定については、提案した段階ですでに目星をつけていました。塾・予備校時代の教材メーカーに連絡し、5年間使っていた公立高校受験用の問題集を取り寄せました。つまりなんと中3用!その科目を選択した生徒は、英語が苦手とはいえ、ハイレベル中高一貫校の生徒です。教材を配った時には「なにこれ、中3用?公立高校受験用?私たち完全にばかにされてる…」とざわめきました。

 

学年全員が必修の「英語Ⅰ」(現在の「コミュニケーション英語Ⅰ」に相当)で高校英語を習う一方、週に2時間、全クラスから集められた英語苦手のメンバーで、「一般動詞の疑問文を作るには〜」「to 不定詞には3つの用法があって〜」と「超」基礎的な内容をゆっくり勉強しました。結果、「英語Ⅰの成績は赤点なのに、英語基礎演習では10段階中8がついた」という生徒も現れ、苦手意識の克服に一役買ったように思います。学校の性質からか、「苦手な生徒をすくい上げる授業よりも、成績優秀者をより伸ばす授業の方が面白いのでは」と、やんわり嫌味を言われたりもしましたが、私にとってはとてもやりがいのある、思い出深い時間でした。

あれ、また英語が全く出てこない英語教育記事を書いてしまいました〜